知識と技術で教える演技講師タツミです。
・どうしたら台本って読解できるの?
そんな悩みを抱える方に向けてこの記事を書いています。
今回の読解のパートは台本そのものの読解でもありますし、演じるための役作りをする上での人物の読解にも使えるものです。
僕も「お前そんなこと台本に書いてねぇだろ!」とか「何やってんだ、まじめにやれ!」なんて言われたこともありました。
これを読めばそういった悩みも解消するでしょう。
とても大事な内容になりますので、しっかりと理解してください。
台本読解をするための正しい手順
台本を読解するために必要なことは「客観」と「主観」をきちんと分けて考えることができるかということです。
その上で、客観から順番に主観に向かって考えを深めていくことが、読解において重要なことなのです。
客観と主観の定義をデジタル大辞泉から引用すると
客観とは「第三者の立場から観察し、考えること」
主観とは「その人ひとりのものの見方」を指します。
これをもう少しわかりやすい表現にすると
客観とは「誰から見てもそう見える」ということを表し、
主観とは「その人にはそう見える」ということを表しています。
台本読解の場合、この客観から主観へのステップが明確に用意されています。
それを客観的なパートから主観的なパートに並べると全部で6つ存在します。
1.ト書きに書かれているデータや情報
2.セリフに書かれているデータや情報
3.他の役が言っている意見や考え
4.自分の役が言っている意見や考え
5.台本に書かれていることを根拠に推察した解釈
6.根拠のない役者の個人的な想像
この6つのパートをきちんと順番に行うことで、台本を的確に読解することが可能となります。
読解のコツは客観的なものを優先すること
もっとも客観的なものは、情報やデータです。
これは読解をする上で重要な要素です。
それは、台本の骨組みとなる設定であることが多く、変えることのできないものだからです。
1と2に該当するものが、この情報やデータであり、これは台本上事実として扱われます。
例えば「幕末の京都」ということがト書きに書かれていれば、時代は幕末で、場所は京都であるということです。
21世紀の現代の京都ではないということです。
それはつまり、今とは文化や価値観も違うということです。
このような「台本に書かれた情報やデータ」がもっとも読解で優先されるべきものです。
台本が作品の設計図である以上、この情報やデータを優先しなければ、設計されたとおりに作品を作ることはできないからです。
セリフの読解ではキャラクターの意見や考えが大切
次に客観的なものは、セリフで示されている、その人物の考えや意見です。
情報やデータではなく、考えや意見というところが大きなポイントになります。
例えば、ある役が「あの人は東大卒なんだって」という発言をしたなら「情報」となりますが、「あの人はポジティブだよね」という発言をしたなら、考えや意見となります。
その人にとっては「ポジティブに見える」という発言であって、実際にポジティブかどうかはわからないからです。
特に優先すべきは、自分の演じる役ではない、別の役の考えや意見です。
例えば、「俺はエリートなんだぞ」と自分の役が発言している場合、その役の人物はエリートを気取っているつもりかもしれませんが、他の役からどう見えているかはわかりません。
これはその人物は「自分がエリートだと思っている」という自分の考えを示している、エリートであるという事実にはなりません。
逆に、他の役があなたの役のことを「あの人エリートだよね」と言っているのであれば、あなたの役は「エリートに見られるタイプの役」であることがわかります。
現実でもそうですよね。
自分が思っている自分と、他人が思っている自分は、全然違っているものです。
あなたが思っている自分ではなく、他の人が思っているあなたの方が、あなたの本質を表しているものです。
それは、演じる人物も同じなのです。
あなたの役が自分のことをどう思っているかよりも、他の役があなたの役のことをどう思っているかの方が、客観的であり、読解において優先度の高い項目になります。
根拠のある推測や推察が読解の鍵!
先ほどの意見や考えまでで1~4のパートとなります。
台本に書かれていることからピックアップして、情報やデータ、考えや意見を抜き出していくので、ここまでは大きくずれることはないでしょう。
しかし、5番目のパートは違います。
明確に「台本には書いていないけれど、事実や意見を元に推測できること」が、5番目のパートになります。
例えば、女の子が体調を崩して寝込んでいるところに、男の子が看病に来るとしたら。しかも、遠方から、終電が終わって自転車にのってはるばる来た、という設定だとしたらどうでしょうか?
この男の子は、女の子と付き合っているか、少なくとも片思いをしていて「好き」であるということが推測できます。
このように書かれていることから、書かれていないことを推測することが5番目になります。
そしてここが、解釈の違いが出てくるポイントでもあり、読解力がないと言われてしまう難関のポイントでもあります。
実際に僕自身も言われたことがあるのですが、「台本に書いてあるんだから、読んだらわかるだろ!」というダメ出しをする講師や演出家がいます。
でも、どれだけ台本を読んでもそんなことは書いてないのです。
彼らが言っているのは、台本に書かれていることを組み合わせて考えたら、そう解釈するのが普通だよね、ということを「台本に書いてある」と言っているのです。
書いてあると言われたからと言って、台本を読んでもそのダメ出しの答えは「書いてはいない」のです。
なので「台本に書いてある」と言われた時には、1~4のパートで抜き出した、情報やデータ、人物の意見や考えから、何か解釈が導き出せないかを考えてください。
この5番目のパートが的確にできるようになることを、一般的に「読解力を付ける」と表現しているのです。
個人的な想像は一番最後のパート
そして一番最後に行うことが、個人的な想像です。
これは台本に書いていない、根拠も示せない役者の個人的なものです。
例えば、自分の演じる役の性格などを「なんとなく根暗そう」と思って演じたりすることも、個人的な想像になりますし、こんな性格で演じたら面白そうという役者のプランも主観的な想像に当てはまります。
主観を最初に取り入れてしまうと、読解は大きくずれてしまいます。
それは、台本がすべての設計図として存在しているにも関わらず、台本で根拠を示せない主観的な考えを最初に取り入れてしまうことで、作品の方向性から大きくずれた役作りや演技をしてしまうことになるからです。
読解力がないとか、台本が読めないと言われる方の多くが、この主観のパートを一番先に始めてしまうことでずれているのです。
読解力は、手順と方法をしっかりと理解することで的確に伸ばすことができます。
壺はもういっぱい?ある大学の逸話
読解のパートの手順について説明するのに、ちょうどいい逸話があります。
わかりやすく壺理論と呼びますが、ある大学で、教授が突然大きな壺を持ってきました。
その教授は壺に大きな石を詰めてはじめて、石が入りきらなくなると、学生たちに「これで壺はいっぱいか?」と尋ねるのです。
学生たちが「はい」と答えると、教授は今度は小石を壺の中に入れ始めました。
小石が入らなくなると「これで壺はいっぱいか?」とまた学生たちに尋ねるのです。
ある学生が「違います」と答えると、教授は今度は砂を持ってきて、壺に入れ始めました。
そして、砂が入らなくなると、また「これで壺はいっぱいか」と尋ねたのです。
学生たちは揃って「違います」と答えると、教授は笑って、壺に水を注ぎました。
この逸話では、壺を人生にたとえています。
大きな石を先に入れない限り、それが入る隙間は、その後には二度と無いということです。
この逸話では、大きな石は人生の大事なもの、家族や友達、恋人や、仕事、夢などを指しているのです。
これ、台本読解でも一緒なのです。
大きな石というのは、客観的なデータや情報、小石が人物の考えや意見、砂が根拠のある解釈、そして水があなたの個人的な想像です。
あなたが壺に水を先に入れてしまっては、他のものが何も入らなくなってしまいます。
つまり、読解ができていないために、役作りや演技がうまくいかなくなるのです。
読解力をつけるのであれば、この壺理論をしっかりと理解して、読解のための6つのパートをしっかりと行うことが大切です。
客観から主観に向かって、順番に抜き出していきましょう。
1.ト書きに書かれているデータや情報
2.セリフに書かれているデータや情報
3.他の役が言っている意見や考え
4.自分の役が言っている意見や考え
5.台本に書かれていることを根拠に推察した解釈
6.根拠のない役者の個人的な想像
これが台本読解のための6つのステップとなります。
台本読解が苦手、読解力をつけたいという方は、前回の台本分析と合わせて、今回の読解の6つのステップをぜひ実践してみてください。