知識と技術で教える演技講師タツミです。
・いつもセリフが単調になってしまう
・セリフで大切なことって感情表現でしょ?
そういう悩みを解決する記事を書きました!
この記事では「セリフ表現」に関して、初心者が陥る罠と、それを解決するための取り組み方について書いています。
読み終えるころには、台本を読んだあと、どのようにセリフに取り組めば質の高い演技ができるか理解し、取り組むことができるでしょう。
セリフの表現において大切なのは、感情表現よりも変化
まず、知っておいて欲しいのは「セリフ表現において感情よりも変化が大切」ということです。
「声優になりたい!」という人がまず意識するのが「セリフ」ですよね?
セリフ表現するときに一番みんなが意識していることは、「どんな感情か」ということだと思います。
それが間違っているとまでは言いませんが、それよりも大切なことがあります。
それは「どう変化しているのか」ということです。
その変化の振れ幅まで意識できるとなおいいですね。
よくあるパターンとしては
- 「これは怒っているセリフだから、怒ろう」
- 「これは悲しんでいるセリフだから、泣こう」
という表現方法を取る人が多いです。
そのセリフ単体で考えすぎているのです。
感情表現によるセリフ表現の弊害
セリフ単体で捉えて感情表現をしても、前後のつながりがないので「掛け合い」にならないのです。
- 一人でセリフを喋っている
- 相手に伝えていない
- 相手から受け取っていない
そういう印象を与えてしまうのは、セリフ単体で考えすぎていて、一辺倒な感情表現に終始しているからです。
「感情表現」を意識しすぎると感情が単色になっていきます。
感情表現の型があって、それにはめ込もうとしがちです。
怒っているから声を荒げるとか、悲しいから震えた声を出すとか、そういう「型」になってしまうのです。
でも、感情は基本的に「単色」ではなくて「グラデーション」です。
怒りを【赤】に例えるとすると、少し淡い赤もあれば、血が固まったようなどす黒い赤もあります。
そういう感情の差を演じて表現するには、「感情表現」という決まったパターンがあるような意識をなくしておくほうが良いです。
多くの人がこれにはまりますし、僕もそういう時期がありました。
ですが、この「感情表現」は、大して役に立たないのです。
感情を込める必要はないのです。
変化があれば、自然にそこに感情の変化が生まれるので、それをセリフにうまく乗せてあげさえすれば良いのです。
変化を捉えるためにはセリフ単体で考える前に
- セリフの前後左右があり
- シーン全体があり
- 作品全体がある
を考える必要があるのです。
セリフに前後左右について考える
まずは、前後左右について考えることから始めます。
セリフだけを切り取って表現をすることは基本的にはできません。
例として、次のセリフをどう表現するか考えてみてください。
「愛してくれて………ありがとう!!!」
このセリフをどう表現しますか?
少し考えてみてください。
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
考えましたか?
このセリフを表現するためにどんなことを考えましたか?
これがセリフ表現や台本分析において、とても重要なことなのです。
あなたは「セリフの言い方」を考えましたか?
- このセリフはカッコよく言おう
- 告白のセリフだから甘い感じで言おう
- ありがとう!はすごく嬉しいだろうからハイテンションで喜びを表現しよう
もしこんなことを考えたのだとしたら、あなたは「セリフ表現」にとらわれ過ぎています。
これはただ「セリフ」を切り取っただけで、このセリフには前後左右が存在するのです。
セリフの前後左右とは何か?
セリフや出来事、シーンには、必ずその「前の時間」があり、そのセリフや出来事の「後の時間」があり、同じときに別のところでは別の何かが起こっている。
それを一語で表したのが「前後左右」という言葉です。
つまり今回切り取ったセリフ「愛してくれて………ありがとう!!!」のセリフの前には、必ず「出来事」や「セリフ」があり、このセリフの後にも「出来事」や「セリフ」があります。
そして、このセリフの最中でも同時進行で「出来事」や「セリフ」が流れているのです。
あくまで「台本に書かれているセリフ」は、その一瞬を切り取っているに過ぎません。
一瞬を切り取っても「変化」は見えません。
変化は「前に」どんな状態にあり、「今」どんな状態で、「その後」どうなっていくのかを見せていかなければ「変化」にはならないからです。
切り取られたセリフは常に「今」でしかありません。
この前後左右をきちんと考えられるようになるだけで、セリフの「リアリティ」が変わってきますし、セリフひとつひとつの捉え方が変わってきます。
では、ひとつ普段からゲーム感覚でできるエクササイズをご紹介しましょう。
前後左右を考える”妄想”エクササイズ
先ほど切り取った「愛してくれて………ありがとう!!!」のセリフを使ってエクササイズです。
このセリフの前後左右を考えてみてください。
※このエクササイズはどんなセリフでもOKです。好きな漫画やドラマ、映画のセリフのみを切り取って、前後左右を勝手に別設定で妄想してください。
大切なことは設定されているのは「セリフだけ」ということです。
そこには人物も時代背景も、世界観もなにもありません。
「セリフのみ」からすべてを妄想してください。
どこかで見たアニメみたいでもいいですし、厨二病全開でもかまいません。
大切なことは「これじゃだめだ!」などと否定的に考えず、好き勝手に「妄想」することです。
僕が考えた前後左右
中世ヨーロッパの田舎村という設定にしましょうか。
当時「魔女狩り」が行われていて、魔女と疑わしい女性は火あぶりにされるという風習がありました。
一人の女性が「魔女」として疑われて処刑されることになります。
その女性には幼馴染の婚約者がおり、火あぶりにされるとき、泣きながら女性の名前を呼ぶ婚約者に対して、磔にされた女性が笑顔で「愛してくれて…ありがとう!!!」と言い、一滴の涙が頬を伝って流れていく。
僕はこのセリフからこんな前後左右を思いつきました。
まずは左右から。
火あぶりにされる習慣があるというのは「今でも他の地域で起こっている」出来事、「魔女狩り」が行われ火あぶりにされている広場のイメージであり、そこに集まって女性に嫌悪の目を向けている村の人々の姿であり、彼女が火あぶりにされることで安堵している女性の姿かもしれません。
前で言えば、
火あぶりにされる女性には幼馴染がいて、どんな関係性だったのか、どんな恋人なのか、どんな生活をしていたのかというイメージ、どれだけ幸せで、どれだけ笑顔にあふれている生活だったのか。
今の瞬間は「愛してくれて………ありがとう!!!」のセリフの瞬間です。
そしてその後、その婚約者はどうなるでしょうか?
魔女狩りという制度に対して反対運動を起こすのか、また別の女性を見つけて幸せな生活をするのか、悪魔に魂を売って世界を滅ぼそうとする悪の権化になるのか。
前後は変化の流れです。
そこには時間の流れとともに、「変化」が描かれています。
そして左右は設定や状況、同時に進行している時間の流れや出来事です。
これらをイメージできるかどうかでセリフは大きく変わります。
このセリフをどう表現するかは、この前後左右でまったく違うものになるのです。
言い方や感情に囚われることなく、きちんと台本から前後左右をつかみ取れるように、この妄想エクササイズをやってみてください。
何かを想像するということは、演じるときの原点になります。
ちなみに今回題材で扱った切り取ったセリフですが
「ONE PIECEのエースの死に際のセリフ」です。
気になる方は頂上決戦編をお読みください笑
変化を演じるためには大きいところから読み解く
前後左右はセリフ単体の小さなポイントを考えることですが、変化を演じるためには、もっと大きな作品全体について考えて見ましょう。
これは演じるために「台本を読む」とき、とても重要なことになります。
セリフ表現の話をしていますが、お話していることは「台本読解」のことについてです。
前回の前後左右もそのひとつです。
台本読解で重要なことは、「木を見て森を見ず」という状態ではいけないということです。
物事の一部だけを見ると全体を見失ってしまうということですね。
セリフ単体で捉えてしまうと、シーンの流れ、作品全体の流れから違うものを演じてしまうことがあります。
そうすると…「お前何やってんだよ、台本も読めないのか!」と怒声が飛んできたりするのです。
作品全体を知ることで効果的な変化をつける
多くの人がセリフに囚われがちになります。
そんな「木を見て森を見ず」にならないよう、大きなところから分析していくのが定石です。
一番大きなところは「作品全体」、作品によっては「シリーズ」で区切られるものもありますね。
ONE PIECEなら「○○編」というやつです。
あれはONE PIECEという大きな作品の中に、○○編というエピソードがあります。
物語はエピソードごとに展開されていくので、ああいう作品の場合は「エピソード」を全体として捉えて構いません。
まず必要なことは「作品のゴール」はどこにあるのか、というポイントです。
作品には特定のエンディングがあります。
そのエンディングのために、シーンがたくさん並んでいるわけです。
そこには、シーンによる観客の感情曲線があり、役の感情曲線があり、それぞれが交差しながら、結末まで向かっていくのです。
また、その作品が「どんな種類の作品なのか」も重要なポイントです。
笑えるのか、泣けるのか、怒りが沸いてくるのか、怖いのか、不安なのか、いろいろな感情を起こさせます。
その上で「自分のセリフはどういうタッチで言うのか」「どんなニュアンスが必要なのか」を探っていくのです。
次のシーンや、今後のシーンなどを加味して表現することによって、ストーリーに必要な変化をつけていくことができます。
シーンの流れから見るセリフ表現について
前回作品全体から見たセリフ表現についてお話しました。
作品全体を見ているということは、「すでに結末が理解できている」ということです。
また、どんな印象を受ける作品なのかということもすでに「理解している」状態といえます。
その上で、セリフをみていきます。
前後左右のところでもお話したように、前のシーンと後のシーンがあります。
そして後のシーンはそのまま結末まで続いていきます。
たびたび例に出しますが、ONE PIECEの頂上決戦のシーンをいくつか思い返してみます。
前後左右の項目では「愛してくれて…ありがとう」というセリフを出しました。
このシーン自体は、本当にラストの局面ですが、その前にさまざまなシーンがあります。
このシーンの手前で、一度エースは処刑されるところからルフィに救出されます。
しかし、赤犬の攻撃がルフィに襲い掛かり、弟を助けるため、エースが盾となり、赤犬の攻撃を受けてしまうのです。
そして、死に際の一言が「愛してくれて…ありがとう」なのです。
ざっくりとした流れですが、このシーンの流れを見ていくと、きちんと「変化」や「起伏」が描かれていることがわかります。
エースが助かり、このままハッピーエンドかに思えた次の瞬間、ルフィがピンチになり、兄貴としてエースが身代わりになる。
弟に助けにくるなと伝え、死を覚悟していたエースは、弟を助け、「ありがとう」といって倒れる。
ただただ感情の流れを追うだけでなく、どんな想いがあるのかということも大切です。
そして、一番大切なのは、「シーンの流れを汲んだ上で、いかに構成するか」です。
エースが最後死ぬのであれば、直前の助け出されたところは、「このままエンディングか」と思わせる演出が必要です。
「助かった!」と思わせたところがなければ、最後身代わりに死んでいくところはシーンとして活かせません。
また、「助かった!」と思わせる前には、エースは「死を覚悟」している必要があります。
その背景にはONE PIECE初期からある「危なっかしい弟を助ける兄」の想いもあります。
そういう流れを汲んだ上で、一つ一つのセリフをどう言葉にしていくのかが、僕ら声優、俳優の仕事のひとつです。
セリフひとつに対してどこまで掘り下げていけるかというのは、こういった構成力からのアプローチもあります。
まとめ
・感情表現より変化が大切
・感情は単色ではなく、グラデーション
→感情表現をパターンにしてしまうと単色になってしまう
・変化のための3つの読解ポイント
→前後左右を知る
→シーンを知る
→作品全体を知る
流れを汲んだ上で、一つ一つのセリフをどう言葉にして伝えていくのかが声優・俳優の仕事